地域包括ケア時代の健康サポートは医工連携で!

第2回 医療工学特別講演会にてご講演いただいた帝京平成大学薬学部教授井手口直子 様よりご寄稿いただきました。

薬局が地域に密着した健康情報拠点に

我が国が推進している地域包括ケアシステムは、「団塊の世代が75歳以上となる2025年をめどに、重度な要介護状態になって住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい、医療、介護、予防、生活支援が一体的に提供される」(厚労省)中学校区の規模で行うシステムであり、言ってみれば地域全体を医療機関、介護機関とみなしていくことを目標に作られている。その折、日本再興戦略として平成25年6月14日の閣議決定で、予防・健康管理の推進に関する新たな仕組みづくりとして、「薬局を地域に密着した健康情報の拠点として、一般用医薬品等の適正な使用に関する助言や健康に関する相談、情報提供を行う等、セルフメディケーションの推進のために薬局・薬剤師の活用を促進する」という一文が発表された。のちに健康情報拠点という名称は検討されて「健康サポート」に変更されたが、これは薬局が地域の健康ステーションとして国が改めて位置づけた、極めて重要な決定である。

かかりつけ薬剤師の機能

平成25年に発表された「患者のための薬局ビジョン」に基づき、平成28年4月、一定の薬局薬剤師経験と研修認定がある薬剤師は、患者の同意を得て“かかりつけ薬剤師”として、指導料の算定ができるようになった。かかりつけ薬剤師の機能としては、患者が服用する処方薬、一般薬、健康食品等を一元管理して服用状況、副作用や飲み合わせなど安全性のチェックを行い、24時間の対応でさまざまな情報提供、相談を応需する。

健康サポート薬局の機能

平成28年10月には、都道府県知事等に届出を行うことで健康サポート薬局の認定制度が始まった。これは、薬事関係法規上、「かかりつけ薬剤師・薬局の基本的な機能に加え、国民による主体的な健康の保持増進を積極的に支援する機能を備えた薬局」と規定される。具体的には、前述の「かかりつけ薬剤師」機能に加え、1 適切な受診勧奨、 2 連携機関の紹介(地域包括支援センター、居宅支援介護支援事業所及び訪問看護ステーション、健康診断や保健指導の実施機関、健康センター等の行政機関・介護予防・日常生活支援総合事業等)、3 要指導医薬品、一般用医薬品、介護用品及び衛生材料等の供給 4 地域住民への健康維持増進その他のための健康講座についての定期実施 となる。

 

多機能な「薬局」と医工連携の有用性

「処方箋を持たずとも気軽に入って健康相談ができる身近な健康ステーション」が本来の薬局の姿である。そして多機能な場所である。薬局はすでに医工連携と言える数々の取り組みが生み出され、淘汰されてきた場とも言える。

患者とのコミュニケーションに

筆者が継続して取り組んでいる研究テーマが「患者と薬剤師をつなぐIT」である。携帯電話やスマートフォンを用いてのお薬の服用時間のお知らせと服用状況及び健康情報(体重や歩数)の把握を行うこと、さらにフリーコメント機能で患者側の相談や、気づいた事、ちょっとしたつぶやきもキャッチすることで、次回の来局時のケアの質が各段に向上する。

日常の見守りや、健康情報の共有に

また、血圧計や歩数計、体組成、睡眠データなどの情報も医療従事者との共有が可能になり、データ内容のコメントとフィードバックすることで患者のモティベーションの向上に有用である。

早期発見、予防を薬局で行える侵襲性のない測定機器

急速な勢いで進む高齢化での大きな問題は「認知症」である。そしてだれもがおびえる「がん」これらの効果的な予防のための測定、発見に、薬局店頭でも扱える侵襲性のない性能のよい機器が、未病、予防に一層望まれる。

在宅医療分野はこれからさらに発展する

国民の40%が、自宅での最期を希望している。でもその前に在宅での快適な療養が不可欠である。もはや病院でできる多くの治療が在宅でも可能になってきた。今後はさらに小型化、簡易化の医療機器の開発が歓迎される。

医工連携は人と人とを「つなぐ」「助ける」

もともと医療は1対1の個別化されたサービスであり、患者一人ひとりのニーズに医療従事者は細やかに寄り添い、QOL(生活の質)を向上するのが使命である。しかし、医療現場は多忙であり、疲弊し、またはそれを避けるために画一的なケアに走りがちになる。テクノロジーで医療従事者を助け、患者とつなぐ工学との連携は、まだまだこれからも必要である。スマートフォンの向こうにAI(人工知能)ではなく、人がいるから、いつも会う“かかりつけ薬剤師”が見守ってくれていると思うから、患者は運動や食事管理を頑張れる可能性が高まるのである。

モノを創ることのすばらしさ「人々の幸せに直結し、社会のクオリティに直結する」

地域包括ケアのキーワードは「多職種連携」。医療と介護の多くの職種が様々にコミュニケーションをとり、仕事をする時代になった。そこでのニーズも多様化している。最先端の技術と医療のハートが形となり、患者の幸せ、医療の質の向上に貢献することの感動を、LIMSの修了生がリーダーとして多くの医療介護分野で発揮して頂くことを、心から願う。

 

 

井手口  直子
帝京平成大学薬学部 教授 博士(薬学)
京都大学「充実した健康長寿社会を築く総合医療開発リーダー育成プログラム」外部評価委員
日本ファーマシューティカルコミュニケーション学会常任理事
日本在宅薬学会理事  等
薬剤師 日本カウンセリング学会認定カウンセラー 等
著書「ファーマシューティアカルケアのための医療コミュニケーション」
「薬学生・薬剤師のためのヒューマニズム」等
ラジオNIKKEI「井手口直子のメディカル・カフェ」パーソナリティ